※Flash Playerがインストールされていないと、正しく再生できない場合があります。
【語りの梗概】
吉屋は、渡地ジュリではなくて中島ジュリだと言うんだね。その吉屋がジュリにならない頃の歌はあれだよ、比謝橋のね、歌だそうだ。「恨む比謝橋(ひじゃばし)や 誰(た)が架(か)きてぃ置(う)ちゃが〔恨めしいこの比謝橋は誰が架けて置いたのだろう〕情(なさき)無(ね)ん人(ひとう)ぬ 架(か)きてぃ置(う)ちぇさ。〔心ない人が架けて置いたのだろう〕。」と言うけどね、また、「私を渡そうと思って 架けて置いたのだろう。」とも言うよ、下句は。上句はやっぱり同じだけどね。炭焼きウスメー‥‥。それで、この橋を渡って行ったのだが、ジュリになってから、また山原に下る時の多幸山でね、いや、山原に行って戻って来て、仲島に行く時にね、多幸山の山の中に、炭焼きウスメーという人がいたそうだ。そうして、このウスメーはもうその時、ぬか味噌をお茶の茶請けにして飲んでいたそうだが、そこに知らない人が来るので、隠してしまったんだね、そのお味噌は。隠してしまったんだが、吉屋はすでにこれを知っていたらしくて、「さんぴんぬ御茶(うちゃ)ぬ 白茶(しろちゃ)なるまでぃん〔さんぴんのお茶が白茶となるまでも〕なまでぃ御茶請(うちゃわ)きぬ あてぃんねらん。〔いまだにお茶請けのあてがない〕。」と歌を詠んだ、吉屋は歌人だから。すると、そのウスメーはね、このウスメーも職業が悪いだけで、頭は良かったらしくて、「この人は、見たんだねえ。」と思って、恥ずかしくて、「二十日前(はちかめ)にちちえる 糠味噌(ぬかみす)どぅやしが〔二十日前についたぬか味噌ですが〕大和味噌(やまとうみす)思(とぅむ)てぃ なみてぃたぼり〔大和味噌と思ってなめて下さい〕。」と歌を詠んで、味噌を出した。すると吉屋は、この人はただの人ではないと考えたわけだ。そこで、「おやまああなたは 天分のある方なんですね いつの日か私を買いに いらっしゃいませ。」と歌を詠んだらしいね。時知らぬ鶏‥‥すると、このウスメーは、もう約束事になるのでね、「おい、私のような貧乏者が、どうしてお前を買えるか。」と言った。花代は五貫であったそうだ、十銭。それでウスメーは、「どのようにしてこれだけを、私が五貫を貯めきれるか。」と言うわけだね、この花代を。それで、ほら、この吉屋が教えてね、「一日に五十文を貯金するとね、一厘の百では十銭になります。だからね、そうして十銭貯えたら、私を買いにいらして下さい。」と相談して別れたわけだ。その後お金を貯めたので、ウスメーは行く時に、鶏などを持って、吉屋の所へ行くわけだ。そして行って、そこで、「このようなウスメーを知らぬか。」という歌を詠むとね、「多幸山のウスメーを知らぬか。」と詠む。するとまた今度は、吉屋がこのウスメーの知恵を試すつもりなんだからね、吉屋が、「罪(とうが)ん無(ね)ん鶏(とうい)に 縄(なわ)ゆかきみせが。」んち歌(うた)詠(ゆ)でーぎさんよ。あんさぐとぅ、「時(とうち)知(し)らん者(むぬ)や 罪(とうが)やあらに〔罪のない鶏に縄をかけるのですか〕。」と歌を詠んだらしいよ。するとウスメーが、「時(とうち)知(し)らん者(むぬ)や 罪(とうが)やあらに〔時を知らない者は罪ではないだろうか〕。」と答えたそうだ。言うなら、鶏は一番鶏から二番鶏、このように順序よく、時間が来たら必ず鳴くんだよ、鶏は。それで、「この鶏は、この歌う時間を知らないから縛っておる。」という返答をしたわけだ。そこで、後はもう、そのウスメーを入れたわけさ、約束どおりに。その話なんだよ、その炭焼きウスメーの話は。