沖縄伝承話データベース

親川富二さんの語り

渡嘉敷ペーク 一人御馳走 月の吸い物(しまくとぅば)

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【語りの梗概】

昔、渡嘉敷ペークーという大変な頓智者がいたらしいけれど、友人達が、「こいつは、一度からかってやらなくては」と言って皆で渡嘉敷ペークーを飲み屋に呼んだ。そして、そこに御馳走もたくさん出させて、「さあ、もうすぐ渡嘉敷ペークーが来る頃だから自分達は隠れていよう」と言って裏座に隠れていた。そこへ言ったとおりに、渡嘉敷ペークーがやってきた。呼ばれているものだから、そこへ入っていくと、もうあそこにもここにも、御馳走はたくさん並べられているけれど、人ひとりいない。「ははあ、これはやられたな。あいつらにからかわれているんだな」と渡嘉敷ペークーは、すぐに気づいて、「やあ、あなたがたはもういらしてたんですね。私は今しかこれなくて失礼しています。もう今来たものですから」と、ペークーは独り言を言った。そして、もう言ったり返したり、みんな自分一人でやり、「これはこれは、こんなにもう御馳走もいただいて、本当にどうもありがとうございました」と言ったり返したり、皆独り言をした。「それじゃあ、もう御馳走にもなりましたし、あまり長居してもいけないので、私はもうこれで失礼します」と言って隣にあった御馳走もみんなかき集めて、自分の風呂敷に包んで持ち帰ったという話です。その後、今度はこの渡嘉敷ペークーが、「こいつらにからかわれてなるものか。今度は、こっちがやりこめなくては」と言って、それで、またこの友達みんなに、「旧の十五夜の晩に、私があなたたちに、まだ食べたことのない物を御馳走しますから、十五夜の晩には、必ずいらしてくださいよ」と言って招待した。そして、その晩になったので、渡嘉敷ペークーは、自分の家の庭に筵を敷いて、そして、お 吸い物のお碗をお膳にきちんと入れて並べて、お箸も添えて、友人達を待っていたらしい。やがて、友人達がやってきたので、渡嘉敷ペークーは、「やあ、このあいだはもうあなたたちにずいぶん御馳走になったの で、その恩返しとして、今日はあなたたちに、まだ召しあがったことのない月の吸い物を御馳走しようと思って、お呼びしたのです。さあ、どうぞ召しあがって下さい」と勧めたので、「へえ、月の吸い物とは聞いたことがない。どんな御馳走なのか、それじゃあ、一緒に食べてみよう」と言って、そのお吸い物椀の蓋を開けて見ると、もう何も入ってはいなくて、水ばかりが入っていた。それで、一緒に来た人達は隣の人のものをのぞいたりして、「なんと不思議なことだ。何も入ってはいないけれど、これはどういうことだろ う」と言って、集まった人の中から、一人の人が渡嘉敷ペークーに、「どうしたのだ渡嘉敷。これには何も入っていない。水だけが入っているのだが、何の御馳走が入っているのか」と聞いた。するとペークーは、「それなら、あなた達、このお吸い物の中にお月様が映ってはいませんか。月の形が映ってはいません か。これが月の吸い物ですよ」と言った。それでもうこのやって来た人達は、「このあいだも、この渡嘉敷ペークーをからかうつもりだったのに、逆にやりこめられて、今日もまたこいつにやられてしまった」 と言ったという、昔の渡嘉敷ペークーの頓智話です。

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