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【語りの梗概】
昔、ある所に侍夫婦と女親の三人が暮らしていた。侍である夫は、大和へ勤めに行っていた。母親は息子が大和に勤めに出ている間に、夜中に別の男が忍んで来て嫁や子を襲ったりしたら大変だと考え、そうなったら息子に対しても申し訳が立たないと思った。それで母親の計らいで、母親は髪の毛を切って男装して、嫁と枕を並べて寝ていた。そこへ、息子が勤めを終えて大和旅から沖縄に帰って来た。息子は、家に帰る途中で夜になってしまい、泊まらなくちゃいけなくなった。ある道中に大きな一軒家があったので、「泊めて下さい」と頼む。「泊まりなさい」と言われ、そこで食事も取り、泊まっていた。そこには女の子がいて、眠る時には女の子も一緒に旅人の側に寝かせた。「これは珍しいことだ。知らない人の側に女を寝かせるとは、変わっているな」と思った。そうしているうちに時間が経って、家の外で包丁を研いでいるような音が聞こえてきた。「これはもううっかり出来ない。一大事だ」と、その人は目が覚めてしまった。側に寝ている女の子に気付かれないように、床を撥ね起こして床下に入って、そこから外に出て裏庭に飛び出した。すると、裏庭にはたくさんの竹が生い茂っていた。「珍しい事だ、この竹はこのようによく生育しているが、どういうことだろうか」と、念入りに竹の根本を見てみると、そこには人間の頭蓋骨が積まれていた。侍はびっくりして、屋敷の外に傾いて生えているその竹に登って、そこから飛び下りて家の外に出て、夜中走りっばなしで逃げた。すると、トゥケー渡しを渡らなければいけない所があって、ちょうど船が出て行くところだった。侍は家路へと急いではいるが、「今、船を呼び戻すことは出来るが、ちょっと待てよ。昔の人が言うことに『急がば廻れ』という事もある。遠くはあっても、回り道をして行こう」と考えた。そのようにして回り道をして歩いていると、その船は、乗っている人が多かったために海の中で沈んでしまった。「この船を呼び止めて乗っていたなら、私も海の藻屑となっていただろう。やっぱり昔の人が言った『急がば廻れ』というのは、その例えだな」と感心した。そうして、家路に向かって走って行った。家に来て戸を叩いて、「今帰って来たよ。開けてくれ」と言うつもりだったが、「これはちょっと待て。私が長旅に行っている間に、もしかしたら仲良くなった男がいて、寝ていたら大変だから、まずは家族を起こさずに、寝座敷に行って、様子を見なくちゃいけない」と考えた。それで、こっそりと家に入って行って、寝座敷のところまで行って、枕元を手探りしてみた。すると一ヵ所は男、一ヵ所は髪が長くてこれは女。「もうこれは別の男を連れ込んで、私が留守にしている間にここに寝かせてあるのだな。これは合点がいかない。刀を抜いて二人とも殺してやろう」と思って、刀に手をかけた。だが、また考えてみると、昔の人の言葉に、『意地が出たら手を引け、 手が出たら意地を引け』と言う伝え話もあるのだから、一応は起こしてみよう。起こしてみて、もし相手の男が間男であるならば、刀で一刺しにして殺さなければならぬ。まず、何が何でも起こしてみよう」と思った。そして起こして、明かりを付けて見たら、自分の女親と妻だった。「どういうつもりでお母さんはこのように髪を切ったのか」と問いただした。お母さんの言い分は、「お前が遠く大和に勤めに行っている間に、もし別の男が忍んで来て、お前の妻を犯したらいけないと思ってのことだ。私は寄った年だし、姿形はどうであってもいい、髪も時間が経てば伸びるんだから。それで、私は髪も切って男装していたら、夫はいるんだねと逃げて行くから、そのつもりで、このようにしているんだよ」「お母さんはそういう考えだったのですか。大変ありがとうございました」と。だいたいそういう話です。