沖縄伝承話データベース

大宜味村の猿長者の語り

宮城長栄さん(大宜味村屋古)

宮城長栄さんは、1894年7月13日に大宜味村屋古に生まれました。長栄さんは、この話をお年寄りから聞いて育ったそうです。聞き手は、平良安子さん、金城キミ子さん、平良いくえさん、金城幸夫さん、1983年3月5日の記録です。

【しまくとぅば】

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【語りの梗概】

あれおもしろいはなしだがね、ある時、ある村に旅人がやってきた。その旅人は大変金持ちの家に来て、「一晩、泊めてくれませんか」と、お願いに来たらしい。「もう行き先は、まだ遠いので、どうか一晩の宿を貸して下さい」と。その旅人は、汚い格好をしていて、見苦しい人だったらしいよ。それで、金持ちは、「いいえ、あんたのような人をここに泊めるような部屋はないよ。よそへ行ってくれ」と言って、追い払ったわけ。その人は仕方なく、また家々を訪ねて、ある一軒の大変もうみすぼらしい家に来てね。そこは年とった婆さんと年とった爺さんとが、二人貧乏暮らしをしていたそうだよ。それで、「行く先は遠いし、日も暮れてきたので、どうぞ一晩泊めて下さい。」と頼んだら、「私達のこんな粗末な家に、あなたを泊めることはできません。途中に裕福な家もたくさんありますから、どうぞそこへお泊まり下さい。」と言ったので、「あっちこっちから断られたので、もうぜひここに泊めて下さい。」と言ったそうだよ。それで、「それじゃあ、あなたがそれでよいとおっしゃるのなら、どこへでもどうぞお泊まり下さい。」と言って泊めてやったそうだよ。

泊まった翌日の朝、お茶を飲む時に、その旅の人が、「ところで、あなた達は何が望みか。」と聞いたので、「それは、もう一度若返って、また世の中のために働きたいです。」と言ったらしいよ。「ああそうか。それじゃあ、若返りたいか。」と言うと、「はい。若返りたいです。」「よし、それなら私が薬をあげますから、風呂に入る時に、この薬を入れて浴びなさい。」と言ったわけ。そうやって、二人はその旅人がくれた何やらその薬を入れて、風呂に入ったわけね。二人とも風呂に入って浴びたら、風呂から上がってくる時にはもう、まるっきり別人のように、若返っていたわけね。もう元の姿に若返ってね。

若返ったら、また隣りの金持ちの人が、そこへ訪ねて来たわけよ。もう、その隣りの金持ちの家の人たちは、朝見ると、もうびっくりしたわけさ。そこもまたお爺さんとお婆さんなんだから年寄りだったそうだよ。それで、「どうしたのだ。あんたたちは。昨日までは、あんなに腰も曲がって、年寄りだったのに、こんなに若返って。どうやって一度でこんなに若返られるのか。」と言ったらしいよ。そしたら、この二人は、「はい、ここに夕べ泊まった旅の人が、この薬を渡して、風呂にこの薬を入れて浴びると若くなるといったので、それを入れて浴びたら、こんなに若くなったんですよ。」と言ったそうだ。「ああ、そうだったのか。」と言って、欲張りの金持ちの年寄りの二人は、「それじゃ、その人はどこへ、もう行ったのか。」と聞いたら、「まだ、そう遠くへは行っていないよ。まだどこそこへいるはずだから、今行けば、すぐに追いつけますよ。」と言ったわけね。そうやって二人は、もう欲もまる出しで、もう一所懸命走って、もうその人に追いついて、出会ったらしいよ。そして、「ああやって隣りの人は、あなたのおかげで、その薬を入れて浴びたら若返ったのだと言っていたので、その薬をぜひ値段は惜しみませんから私達にも分けて下さい。」と言って、お願いしたらしいよ。そして、その人が、「ああそうか。あんた達も若返りたいのか。」と言うと、「はい、ぜひとも若返りたいです。」と言った。「さあ、それならば、この薬を持って行って、あんた達もまたこれで浴びなさい。」と言ったらしいよ。そうしたら、早速もう喜んで、非常に有頂天になって帰ったわけね。家に戻って行って早速風呂をたいて、その年寄りは浴びたらしい。すると浴びて出てくるときは、その夫婦はもう犬や猫のように毛がいっぱいで、もう猿になっているわけよ。もう二人は、人間からもう猿になってしまったのだから、ほら、猿というのは野性の生き物でしょ。だから、もう山の中へ逃げていったらしいよ。

(猿になって)逃げていってしまったので、この金持ちの家はもう非常にそこは、豪華な家なんだけどね、もう空き家になったわけね。空き家になったのだが、その猿は、たびたびやってきては、また庭石にね、座たりしたんだってよ。座っては、また山へ帰ったりして。そして、「こんなに立派なすばらしい家がもったいないなあ。」と言ってね、貧乏な家の若返った人に、村中の人が、「もうあんたたちが、ここに住んだらどうだ。」と、相談をもちかけたので、その家に住んだらしいよ。

ところが、その猿は山からやってきて、いつも、そこの庭石に座ったりするわけね。「さあもう、これはしようがない。こいつがここへ来ていつも座ってばかりいたら何にもできないよ。」と言って、そして、「もうこれは、この猿を退ける方法を考えなくてはならない。」と言って、そうやって、村中の人達が考えていると、ある偉い坊さんが教えたそうだ。「よし、それなら、その猿が来る時間の前に、この石をうんと焼いておきなさい。」と言ってね、いつも座っている石を焼いてね、そうやって、完全に焼いて、もう用意ができた頃、山から猿がまたやってきたらしいよ。来て、そこにペタンと座ったらしい。ほら、ここで、石を焼いてあるわけでしょ。だから尻を焼いてしまってね、悲鳴をあげてまた山に逃げて行ったまま、そこには、その猿は来なくて、その貧乏者の情け深い年寄り達は、一生涯幸福に暮らしたんだと。だから、猿のね、尻が赤くなったのはね、その焼け石に尻を焼かれたからだよ。それで猿は、赤尻になったんだとさ。それだけ。

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