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【語りの梗概】
ある方が子供をいい年まで生まなかったそうだ。それで、もう子供を生まないから、「村の神様のところへ行って子供が生まれるようにお祈りしよう」と言ってお祈りした。それでも、子供は生まれなかったそうだ。ある三世相のいい易者のところへ行ったら、「貴方方は子供を生めないなら、何とかいう花を持ってきて、いつも寝る度にその花を二人の間に入れて寝なさい。そして、子供が生まれたら、その子に花の千代松と名前をつけなさい」と言うので、そうしていたら、三世相の言ったとおり、やはり男の子が生まれたので、その男の子には、花の千代松と付けた。間もなくその母親は、その子が七才ばかりになると亡くなると、父親は狐が化けた女に騙されて、その女を妻にしたそうだ。そうすると、その狐が化けた女は、「この子は生れ高いので、その子を生かしておけば私は後で見破られてしまう」と言って、その子を殺す企てをし、仮病を使って、「私の病気は人の生き肝を食べないと治らない」と夫に言った。妻はその狐が化けた美人だったそうだから、夫はその女に首ったけで、もう長らく考えていたらしいが、「子供は生み変えられるんだもんねえ。もう子供は殺そう」と思うようになって、夜、仮病の妻に、「明日は子供の生き肝を取ってあげようね」と話していたらね、その子供は部屋の傍に寝ていて、眠ったふりして聞いていたから、その夜のうちにお寺の坊主の家に逃げて行った。そうしていると、父親はまたその子供が逃げて行ったことを知って、寺まで追って来て、「こうこうで妻が病気になり、生き肝を取ってやらなければ病気も治らない。子供は生み変えれば生み変えられるから、その子の生き肝を取って与えようと思うから、子供を渡してくれ」と言った。すると坊主は、「父親のお前が子供を殺そうとするのは、かわいそうで見ておれない。お前が殺したら後になっていつも名残がのこるから、お前は家に帰っておけ。子供の肝は、必ず私が殺して肝は持って行ってやる」と言って、父親を帰すと、その坊主は犬を飼っていたそうだが、その犬を殺して犬の肝を取って、それでその犬の血は子供の着物に付けて、その着物に生き肝は包んで持って行った。「お前達の子供の肝だから、煎じて与えなさい」とそう言って持って行って犬の肝をその妻に与えると、犬と狐とは仇なので、狐は化けることができなくなって、狐になってクヮウー、クヮウーと鳴きながら逃げたそうだ。それで、父親は気が狂ったようになっていたらしいが、その子供にはまたその坊主が馬を与えて、「この馬は日に何百里も走る馬だからね、この馬に乗って行ってその馬が止る所でお前は生活しなさい」と言うと、子供は、「はい」と言って、その馬に乗って行き、その馬の止まった家の所で降りると、その家は男の子がいない金持ちの長者だったそうだ。そして、そこで働こうと思って、「私を使って下さい」と言うと、「お前のような子供を使おうとは思ってもいない」と言ったので、「いいえ、出来る限り頑張ります。使って下さい」と言うので、「では、お前でも火たきくらいなら出来るだろう。お前は竈のの後で火を焚いて飯炊きをしなさい」と言いつけられた。それで、その馬は山に隠して、そこで働いていたら、いつも灰を被っていたので、みんなに灰坊(ふぇーばー)と付けられてね、かいがいしく人の二倍働いて、、人が起きる前に草を刈って馬に与えて自分の馬を飼いながら、そこの奉公をし生活していたそうだ。そして、そこで長く暮らしているうちに、そこの村は、一年に一回今でいうアブシバレーの祭があったので、その日には、家中が行くから、「今日はこんな祭があるが灰坊も行こう」と言うが、「いや、私は家で寝ている方がいい」と言って行かないで、そして皆が行ってしまうと山に行って馬に乗って行って、そこに衣装やら鞍も準備して置いてあるから、衣装を来て馬に乗って祭の場所へ行くと、それを見た人は一人残らず、「天のお方だよ」と言っていたが、その長者の家族も姿が変っているんだから、全然それが灰坊とは分からん。そして、家族は次の日も、「今日も馬の殿御(とのご)がいらっしゃるはずだから灰坊も行こう。行ってそのお方にお合いしよう」と言うのだが、「いや、私は行かないよ」と言って行かないで、皆が行ってしまってから、また灰坊は後から馬に乗って行って、人より先に引き上げては帰るのだった。その長者の娘は、小鳥が好きで、それでどこへ行くときも小鳥を籠の中に入れていつも提げていた。その灰坊が馬に乗って祭の場所へ行くと、村の若い娘達は、「馬の殿御がいらしたよう」と見ようと押しかけてくるので、その長者の娘も、その女たちに押され、小鳥籠が開いているのも知らないでいると、小鳥が飛び出してしまったから、「小鳥が逃げてしまった。小鳥を捕まえて下さい」と言って声をあげたので、村の衆は、なにしろ長者の娘のこと我先に捕もうとするが小鳥は捕まらず、それで、その灰坊が馬に乗って行くと、その小鳥は、スーッと飛んで来て近くの木に止ったので、灰坊が小鳥を取ってその娘の籠に入れた。その娘には大体分ったかも知れないが、「ありがとうございます」と言って顔を真赤にして一言お礼を言うと、何か一言いいたい、名前も聞きたいと思ったが、その灰坊はもう人より先に戻らないと、人に知られてしまうからとさっさと家に帰って行ったので、その娘は名前も聞けなかったから、それから気分がふさがって病気になってしまった。親の長者が心配なさって、偉い易者を連れて来るとね、「ああ、お前達の娘はね、病気ではないよ。あの殿御に思いを寄せて恋患いをしているんだ。幸にもその殿御はね、この屋敷のうちにいるからね、その小鳥を放したら、どの人か分かるよ」と言ったので、その長者は、「そうだったのか」と、翌日は屋敷内の男衆を集めて、そして小鳥を放したら、その小鳥は止まりかけては飛び、降りかけては飛んだりしているから、残りの男達は、その小鳥を手に止めてその娘の婿になろうと、手を高くあげて、「こっちへこおい、こっちへこおい」と皆呼ぶんだが、小鳥は全然止まらんので、それで長者が、「屋敷の男衆の者達は、みんな来ているか」と言ったので、集っている人達は顔を見合わせて、「そういえば灰坊一人は来ていませんねえ」と言った。長者はまた、「灰坊でも屋敷の者だから早く呼んで来い」と言ったので、「あんな灰坊を連れて来ても仕方がない」と笑って灰坊をつれて来たらしい。そして灰坊が来たらその小鳥は遠くから飛んできて灰坊の手の指先に止まって、嬉しそうに鳴いたので、一人残らずアッと驚いて目を丸くした。また長者さんも、「まさかこの灰坊が」と思っていたが、「それでも灰坊に着物を着せ、着飾って見なければならない。お前は、さあ体を洗って綺麗な着物もあるから、それを着て見なさい」と言うと、「ああ、それは結構です。私が着物を持った馬を呼びます」と笛を吹くと、着物を入れたつづらを背負った馬が来て、そのつづらの中の衣装を着て立っと、今までの灰坊がたちまち立派な殿御に変った。長者はその殿御にわけを聞くと、殿御は、「私はどこのなにがしの朝日長者の息子だが、これこれの理由でここに来て奉公していたんですよ」と言うから、「ああそうだったのか」と事情が分かって、それから、「朝日長者の息子が夕日長者の婿となった。めでたし、めでたし」と言って、七日七夜、婚礼の祝いが続いたそうだよ。