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【語りの梗概】
島尻(しまじり)のずっと南の方にあった話だがね。兼城(かねしろ)部落というところに、アヘーデンという人がいた。この人は父や母に早く死なれて、一人ぼっちだった。負けず嫌(ぎら)いな人で、あの家この家の日雇(ひやと)い稼ぎをして、草刈りをして生活しておったんだよ。ある日、いつものようにアヘーデンは、ある農家に頼まれて草刈りに行った。そしたら、突然雨が降りだして、隠れ場がないわけ。それで、昨日今日人を葬ったばかりの東の墓で雨宿りをすることにしたって。アヘーデンが墓を後ろに座っておったら、墓の中から髪をひっぱられたわけ。びっくりしたアヘーデンが、その手をつかまえたら、冷たい。死人みたいな手だけれど、だんだんだんだんあたたかくなってきた。「お前は死んでいるのか、生きているのか、はっきりせい」。すると「私は、実はどこどこの娘で、ちょっとした風邪で死んだと思われてここに葬られております。墓を開けて助けて下さい」というわけ。それで、「手をはなせ」と言って墓を開けたら、棺桶(かんおけ)の上に青ざめた女が座っておるわけ。アヘーデンは女を抱いて墓から出して、自分の家に連れて行った。粟麦のおかゆを炊いて食べさせたら、だんだんだんだん元気になった。「お前はどこの者か」と聞くと、 「実は、私は兼城按司(あじ)の妹で、風邪のせいで死んだと思われてここに葬られておりました」と言ったので、娘を家へ連れて行ったら、兼城城では上を下への大喜びらしい。娘はアヘーデンに、「あなたは命の恩人ですから、いつまでも待っていますから」と、結婚の約束をした。そうこうする間に、娘の病気もすっかり治って、娘も年ごろになり、結婚の話が出た。娘は首里の大名(おおな)家に嫁入りすることになった。アヘーデンはそれを聞きつけて、兼城城に行くと、「私に結婚式のカゴかきをさせてくれ」と頼んだ。結婚式の日になってカゴを担いだアヘーデンは、首里へ行く途中、カゴの中の娘に言ったそうだ。 「あなたは忘れたのか、私が誰かわかりますか」。「いいえ」。「お前を助けた大川アヘーデンだ」。それを聞いた娘は、急にお腹が痛いと言いだして、「引き返しなさい」ということになった。それで、兼城に帰ったら、兼城按司の奥さんも心配してね、いくら口を聞いても妹は聞いてくれない。「私をアヘーデンの奥さんにしなければ死んでしまう」と言ったので、アヘーデンは娘の家に婿入りしたそうだ。そして、それからも前のように励んで、ここの按司には跡取りがいなかったもんで、とうとうアヘーデンが跡を継いで兼城城の城主になった。それがちょうど八月八日の日で、赤飯を炊いて祝ったって。それから、八月八日のカシチーの祝いが始まったそうだ。