フランスの民族学

クセジュ文庫719
フランスの民族学
ジャン・キュイズニエ、マルチーヌ・セガレン 著|樋口淳・野村訓子 訳|白水社|定価980円

「民俗学」と「民族学」は、よく似た学問で、とくに日本語ではどちらも「みんぞくがく」と発音するので、二つの学問の研究領域の違いが分かりにくいのです。

この二つの学問はフランス語では、民族学はETHNOLOGIE、民俗学はFOLKLOREですから、 誤解のしようはありません。

民族学は、ETHNOS(民族)を研究する学問で、主として自民族以外の少数民族の言語や社会生活を記述してきました。

これに対してFOLKLOREは、一般に自民族の言語や社会生活を調査・研究するのが、一般です。

著者のジャン・キュイズニエとマルチーヌ・セガレンは、これまでの 学問の枠組みからいえば、現代フランスを代表するばりばりの「民俗学者」 といってもいいはずですが、ここで二人があえて「フランスの民俗学」ではなく「民族学」というには理由があります。

現在なら、誰でも知っているように、フランスは、外からみるといかにも「フランス人という一民族からなる国家」ですが、じつは多様性にとんだ 多民族国家なのです。その言葉ひとつとっても、ブルトン語、フラマン語、バスク語、アルザス・ロレーヌ語など、フランス語とはまったく違う言葉が、つい最近まで日常生活で用いられていたのです。もちろん今でも、さかんに使われていますが、テレビやラジオや、学校教育のおかげで、誰もが「共通フランス語」を理解し、好んで使用するようになってしまいました。

これは、とくに教育を通じて国民の知識や教養を一元化し、行政のスムーズな実行や、法律網の整備を目指す為政者にとっては便利ですが、それぞれの地域で、地域語を話し、地域に根差した暮しをしているフツーの人々(フォーク)にとっては、迷惑なことに違いありません。

本書は、これまでフォーク(普通の人たち)の範囲を、ごく自然に「フランス」として、「フランス人の暮しを研究する」ことを当たり前だと考えてきたフランスの民俗研究者(フォークロア研究者)が、反省を込めて、「フランス」と呼ばれる国に住む人々の言葉やライフスタイルや信仰などの多様性(ダイバーシティー)を、コンパクトに示した成果です。