ねずみは、昔から日本人の生活になじみ深い動物でした。
家や畑を荒らすといって忌み嫌われる一方で、大晦日には「ねずみの年取り」といって土間などに餅をそなえる慣わしもあったのです。
民話の世界では、「ねずみ浄土(おむすびころりん)」のように地下に不思議な世界を持っていたり、「ねずみの金干し」のように宝物をたくわえていることもあります。
「ねずみのすもう」は、こうしたねずみに関する民俗を背景にした致富譚です。
佐々木喜善や佐藤義則などによるすぐれた記録がありますが、ここでは松代町の婦人会のみなさんが記録した資料集をもとにしました。
「いちごしっくり」という松代町の語りの語り納めの言葉の一つがなつかしい語りです。
この本の絵を担当してくださった二俣英五郎さんは、すごいベテランですが、とても謙虚で、私のような若輩が「二俣さん、お爺さんが長者になって蔵を建てても、母屋は茅葺にした方がいいですよ」というと、ご自分が用意した瓦ぶき屋根の屋敷をあっさり茅葺にしてくれました。
二俣さんがすごいのは、とくにねずみの描き方です。ねずみという小動物は、ともすると不気味なイメージがつきまといます。
しかし、二俣さんの描くねずみは、じつに親しみ深く、愛くるしくすら見えるから不思議です。