ほらんがむて

ワンダーえほん 1991年1月号
樋口淳 文・梶山俊夫 絵|世界文化社|定価260円

これは、世界文化社の編集者・関口さんの依頼で「ワンダーえほん」の1991年の1月の「おはなしとくしゅう」のために書いた話です。

この本を作るにあたって、梶山俊夫さんのご自宅を訪れ、韓国民話について話し合ったのはとても楽しい思い出です。

「ほらんがむて」は、それを被ると姿が見えなくなる魔法の帽子で、日本の彦一話の「隠れ蓑笠」と同じタイプの話です。

日本の話では彦一が天狗をだまして隠れ蓑笠を手に入れますが、韓国の話の場合は主人公が偶然にトッケビから手に入れます。

梶山さんと打ち合わせたのは、このトッケビが祖先祭祀の供物を盗みにやってきて「ほらんがむて」という魔法の帽子を落として行くという設定です。

韓国の人たちにとって、ご先祖さまを祀る祖先祭祀はとても大切で、御馳走をたくさん用意します。

トッケビが、その御馳走を狙うのです。

次は、主人公が魔法の帽子「ほらんがむて」を被って姿を隠し、お金を盗みに忍び込む両班(ヤンバン)の屋敷の構造と、屋敷で遊ぶ男の子と女の子の姿です。

韓国では、正月に男の子はコマをまわし、女の子は飛び板(シーソー)やブランコをして遊びます。

そして三番目には、お正月の市場の賑わいと、市場での綱引きの場面です。

韓国にはスゴイ大綱引きがありますし、市場はいまも昔も大賑わいなのです。

梶山さんは、こうした韓国の暮しの細部にとてもこだわって、素晴しい絵を描いてくれました。

そして、一番大切なトッケビには、日本の鬼や天狗のように決まった姿がないという約束も、きちんと守ってくれました。

「ワンダーえほん」は、雑誌ですから、普通の絵本のようにページ数をたくさんとるわけにはいきません。

しかし梶山さんは、限られた紙面のなかに韓国の暮しの姿をキッチリ描き込んでくれました。

梶山さんとは、「この話は面白いから改めて絵本にしようよ」と約束して別れたのですが、結局そのままになってしまい、残念な気持ちでいっぱいです。