民話の森の歩き方

民話の森の歩き方
樋口淳著|春風社|定価2,381円

民話に親しんだことのある人なら、子どもでも大人でも、誰でも知っている、ペローの「赤ずきん」「シンデレラ」「青ひげ」「長靴をはいた猫」「眠れる森の美女」を題材に、20世紀後半の民話研究を席巻した、①アアルネ・トンプソンの国際比較研究、?ウラジミールプロップの構造研究、③ブルーノ・ベッテルハイムの精神分析的研究、④マックス・リュティの文芸学的研究という4つの理論を分かりやすく説明した民話研究のガイドブックです。

もともとこの本は、大学の教養科目「文学」の授業の教科書として準備されたので、2015年に大学を退職すると、出版社があっさり増刷を打ち切ってしまいました。

当節の出版社の割り切った経営を知るうえでたいへん勉強になりましたが、この本の編集を担当した寺地洋了さんという若い編集者からは、たくさんのことを学びました。

寺地さんは、原稿をよく読んで、著者にさまざまのアイデアを提供し、ついでに素晴しい装丁とブックデザインを用意してくれました。

本は、著者だけではなく、編集者の力でずいぶん成長するものだと思います。

寺地さんは、若年にもかかわらず、お世話になった講談社の平石元?さん、根岸勲さん、白水社の小山英俊さん、そして悠書館の長岡正博さんといったベテラン編集者とならぶ優れた力を示してくれました。

私の個人的な経験では、2000年くらいを境に「未熟な著者のよいところを見つけて育てよう」という気概のある編集者が激減したように思われます。

おそらく、世の出版事情がきびしくなり、著者を育てるう余裕が出版社に失われてしまったのだと思われます。

もし、そうであるなら、本を書く側も覚悟して自分で自分を育てるより仕方ないでしょう。

『民話の森の歩き方』は、たしかに時勢に合わないところがあります。

大学の先生なら、学生にできるだけ分かりやすく説明してしまえば、たとえ相手が分かろうが分かるまいが、その時点で説明責任から解放されます。

しかし、無数の目にみえない読者を相手にする出版の場合には、「分かりやすく説明したつもりでした」ではすみません。

「ぜひ分かっていただけるように」、著者は視点を変える必要があります。

『民話の森の歩き方』も、「出版社・民話の森」が改訂版を用意する時には、大きく姿を変えているはずです。